
機械式駐車場の維持か解体か?管理組合が今考えるべきこと
近年、若者の車離れや高齢化、カーシェアリングの普及といった社会の変化により、マンション内の機械式駐車場で空きが目立つようになってきました。このまま放置すれば、管理組合の財政に影響を及ぼすだけでなく、将来的な修繕や更新費用の増大、住民間のトラブルへと発展するおそれもあります。本記事では、空き区画が増加する背景や管理会社の役割、管理組合がとるべき具体的な対応策について解説します。
駐車場の空きが増える背景
駐車場の空きが目立つようになったのには、いくつかの社会的・制度的背景があります。
ライフスタイルの変化
都市部を中心に若年層の車離れが進み、高齢化の影響もあり、そもそも自家用車を持たない家庭が増えています。カーシェアリングや公共交通機関の活用が広がっていることも、駐車場の需要を減少させる一因です。
電気自動車の普及によるもの
EV(電気自動車)の普及が進むことで、将来的には充電設備の設置やその管理体制の構築といった、駐車場のあり方自体を見直す必要性も生じています。
建築基準法による設置義務
分譲マンション建設時には、敷地面積や容積率に応じて一定数の駐車場を設置することが義務付けられています。しかしこの基準は、自家用車が一般的だった時代の想定に基づいたものであり、現代のニーズとは乖離している場合も多く見られます。
(現在は、東京都をはじめとする一部自治体で、一定の条件を満たせば駐車場設置義務を緩和する制度も整いつつあります。)
販売当初の想定とのギャップ
マンションの新築時、デベロッパーが販売戦略として、駐車場の高稼働率を前提に管理費や修繕積立金を低く見積もるケースがあります。その結果、実際の入居後に駐車場が埋まらず、想定されていた収入が得られない状況に陥ることもあります。
管理会社に責任はあるのか?
駐車場の空きが増えると、マンション管理会社の対応に問題があるのではないかと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、空きの発生自体は社会的な背景が大きく、管理会社のみで解決できる問題ではありません。ただし、以下のような点については、管理会社の対応が問われる場面もあります。
- 空き区画の情報提供不足
駐車場に空きがあるにもかかわらず、住民への案内や周知が行き届いていない場合。 - 長期修繕計画の不備
機械式駐車場の修繕・更新費用が長期修繕計画に正確に反映されていない、あるいは想定が甘い場合。
なお、空き区画の契約促進や外部への貸し出しなどは、管理会社の業務範囲を超えることも多く、管理組合としての判断や住民の合意形成が必要です。
管理組合がとるべき対応とは
駐車場の空き問題に対応するには、管理組合が主体的に現状を把握し、将来を見据えた対応策を講じることが求められます。
駐車場使用料の見直し
周辺相場より使用料が高額である場合、値下げによる利用促進も有効です。特に、空きが多い状態では駐車場使用料の見直しを検討することで稼働率の改善が期待できます。
長期修繕計画の見直し
機械式駐車場は構造が複雑で、修繕や保守に多額の費用がかかります。老朽化が進むほど維持コストが増加するため、長期修繕計画の見直しは不可欠です。特に、今後の利用見込みが少ない場合には、機械式駐車場を更新するのか、撤去するのかといった選択も含めて検討する必要があります。
解体平面化の検討
空きが増え、修繕コストが見合わなくなった場合には、機械式駐車場を撤去し、平置きの駐車場に転換する「解体平面化」も有力な選択肢です。この方法には以下のようなメリットがあります。
- 修繕・維持管理コストの大幅な削減
- 安全性の向上(機械の故障や事故リスクの低減)
- 空き区画の有効活用(平置き化により利用しやすくなる)
外部貸しの検討
住民の需要が少ない場合、外部の第三者へ空き区画を貸し出す「外部貸し」も一案です。ただし、以下のような注意点があります。収益性だけでなく、管理負担や法的対応を見据えた慎重な判断が必要です。
- セキュリティの懸念:
外部利用者が出入りすることにより、防犯上の不安が生じる可能性があります。 - 納税義務の発生:
外部貸しによって得た収入は「収益事業」とみなされ、法人税の申告・納付が必要になることがあります。
駐車場の解体や外部貸し、使用料の見直しなど、住民に影響を与える方針を進めるには、丁寧な説明と合意形成が不可欠です。信頼関係を維持しながら、時間をかけて丁寧に進めていくことが重要です。
今回のポイント
機械式駐車場の空き問題は、単なる駐車スペースの話にとどまらず、管理組合の財政やマンションの将来計画に大きく影響する課題です。車離れや社会の変化を背景に今後も空きは増える可能性が高く、早期の対応が重要です。長期修繕計画の見直しや、解体平面化・外部貸し・使用料見直しといった多角的な対策を検討し、住民との丁寧な合意形成を通じて、持続可能な運営を目指すことが求められます。